法蔵禅寺HOMEPAGE・今月の法話（２０１６）

　

■□１２月の法話■□

●功徳なんて無い

　今年もあと少しで暮れていきます。年末と言えばボーナスですが、もう皆さんはボーナスを頂いたことでしょう。当寺では出ないのですが、……。
「今年は仕事をがんばった。当然、査定もよく、ボーナスは増え、昇進がでいるかも」と思った人は、胸を膨らませて支給される日を待っていたことだと思います。ところが、支給日に、明細を見ると、それが減額されていた人はいないでしょうか。
　そんな時、しょうがないと諦めいる人もいます。一方、そうならないときには落胆の度合いが激しい人もいます。怒りを覚え、暴言を吐いたり、逆にやる気を無くしてまうことになるかもしれません。それは、見返りが欲しいという気持ちが強すぎるからでしょう。
　こんな時には、「無功徳」という禅の言葉を思い出してみてはどうでしょうか。
　この言葉は、達磨大師と梁の国の武帝の話に出典があります。武帝は、深く仏教に帰依して、沢山の寺を建てたりして、仏教の護持につとめた人です。自他ともに認めるあつい信仰を持った人でした。そんな中、達磨がインドから中国に禅を伝えようとやってきました。そこで、武帝は是非、話がしたいと、達磨に面会をします。
「私は寺を建てたり、僧侶を育成したりしています。これはどんな功徳がありますか」と武帝は達磨に尋ねました。
　自分は寺を建立したり、僧を育成したり、いろいろ仏教のために尽くしている。そんな自分には、どんな功徳、つまり御利益があるだろうか、と聞いたのです。つまり、武帝は見返りが欲しかったのです。
　その問いに対する達磨の答えは、ただ、「無功徳(功徳など何もない）」という言葉だったという話です。
　私たちは、こころの底では、利益のいことを考えてしまいがちです。しかし、それでは駄目だと達磨は言うのです。
　自分の行為を褒めてもらいたかった武帝の唖然とした顔が浮かんできそうです。
　禅は、見返りを求めず、今ここを生きろと教えます。どんなに立派な行為も、評価を求めた時点で価値を失ってしまうということを、達磨大師は武帝に伝えたかったではないかと思います。
　私たちは評価を気にします。しかし、その評価は他人が決めるものなです。にもかかわらず、それに惑わされて、心が乱れて一喜一憂してしまうのです。バカの骨頂でしかありません。それに気づくべきです。
　大切なのは、今ここで、ていねいに生きることです。「自分としては十分やった」「自分としては満足」と感じられればＯＫではないですか。
　見返りを求めず、ただ、ただ、やることをやっていくだけです。

■□１１月の法話■□

●怒りの感情が生じたら

　今、アメリカは大変な様子です。トランプさんが予想に反して、大統領になったからということで、反トランプの人々が怒っています。また、韓国では、大統領が親友に牛耳られていたとされ、それに対して国民の怒りが激しいとのことです。
　アメリカも韓国も人々は怒りの感情をダイレクトに表現します。大人でも、子供でも、自分たちの意に反することであれば、怒りの感情を爆発させるようです。
　それに引き替え、私たち日本人はどうでしょう。どうも怒りの感情をあまり表に出すことはないようです。どこかで、「怒ってはいけない、怒ってはいけない」と思っているように見えます。怒るという感情を無理に押し込めているのではないでしょうか。ま、最近は、切れる老人の話もありますが、……。
　しかし、人間であれば怒りの感情はなかなかなくすことはできないはずです。ただ、怒りの感情を認め、それを受け入れられれば、怒りの感情は消えていくでしょう。しかし、それは、至難な技です。
　では、どうすればいのでしょうか。
　江戸時代初期の名僧・盤珪永琢禅師に次のような話があります。
　盤珪のところに、一人の武士がやってきます。彼は、「生まれつき短気で困っています。どうしたら治すことができるでしょうか」と尋ねます。すると盤珪が言います。
「よろしい。今、治してやるから、その短気をここに出してみなさい」
「いや、今っておっしゃられても、ここには今はありません。何かのとき、ひょっと出てくるものなんです」
　そして、最後に盤珪は言います。「そうだろう。縁に従って、周囲との条件に従って、短気というものは出るも。それをおまえさんは、生まれつきと言ったではないか。この親不孝者めが」と。
　この話は、短気で困っているが、どうしたら安心できるかというものです。盤珪は、そんなことを考えずに、そうなったらそのときに落ち着き、安心すればいいと言うのです。心が騒ぐときは騒ぐんです。そのときは、心は、静めようとしても無理です。
　仏教では、「貪・瞋・痴」を三大煩悩としています。「むさぼり・いかり・おろかさ」です。煩悩ですから、簡単におさまるものではありません。同じように、怒りの火が燃え上がっているときに、鎮まれと言っても、余計に怒ってしまいます。鎮めてというのは、いちばん悪い対処方法なのです。
　怒りの火が何で燃えるかと言えば、薪を補給するからです。仏教の教えているのは、その薪の補給をやめよと言うことです。消しなさいとは言わないのです。
　怒りを鎮めるには、小出しにして鎮める方法もありますが、肝心なことは、薪の補給をしないこと、つまり忘れることです。怒りの感情が生じたら、他のことを思って、とにかく、その感情に囚われずにいることではないでしょうか。　鳴いた鴉がもう笑うです。

■□１０月の法話■□

●直心是れ道場

　私たちはやらなくてはならないことが、多々あります。食事を作る、掃除をする、仕事先に連絡をするなどです。お寺であれば、庭の掃除や片付けです。今であれば、夏から木々が枝を伸ばしていますので、剪定をしなくてはいけませんん。
　考えてみれば、これらのことは、「やりたいこと」ではなく、「やらなくてはいけないこと」ばかりです。
　そうにもかかわらず、やらなければならないことを、したくない時があります。怠けたい気持ちに襲われ、ついつい怠けてしまうのです。私も最近は風邪気味で、朝のお経をあげるのを怠けています。
　思えば、人間は誰だって、のんびり、そして楽に行きたいと思っているはずです。だから、やらなくてはならないことがあるとついついやりたくなくなってくるのではないでしょうか。つまり、人間誰だって、怠けたい気持ちはあり、それをなくすることはできないのです。
　しかし、こんなことを言っても、目の前にはやるべきことが襲ってきます。こんな時はどうすれば、いいのでしょうか。
　禅の言葉に、「直心是れ道場」というものがあります。この言葉は『維摩経』にあります。
　ある時、童子が騒がしい城を出て修行に適した場所へ移ろうとします。そこで、維摩居士に出会います。「どちらからいらしたのですか」と尋ねると、維摩居士は「道場からだ」と答えました。童子が、「道場から。それはいったいどこにあるのですか」と問うと、維摩居士は「直心是れ道場」と答えたという話です。
「直心是れ道場」とは、直心、つまり混じりけのない純真な心をもってすれば、どこにいようと道場であるということです。
　修行は、静かな所でなければと思うでしょう。しかし、あれこれと思い（妄想）っをもっていると、どこであっても道場にはならないのです。道場というのは、場所が問題なのではなく、その人の心のありかたにあるのです。
　たとえば、長い階段があったとします。上を見たら、上れるかどうか、ためらってしまいます。もうやめようかなんて考えるようになるのです。
　そんな時は、いろいろ考えずに、まず階段を一歩を上るのです。そして、次の一歩。これを繰り返せば、どんな長い階段であろうと上れるはずです。
　やらなくてはならないこともこの長い階段と同じです。よけいなことは考えずに、とにかく体を動かすことではないでしょうか。
　そういうことで、私も明日から、朝のお経を始めようと思います。

■□９月の法話■□

●負の気持ちに襲われたら

　私たちは生きていると、いろいろなことが起こってきます。いいことばかりではなく、悪いことの方が多くあるような気がします。時にはひどく悪いことがあると、生きていくのがつらく、死にたいと思えることもあるでしょう。
「どうして、私だけこんな酷い目に遭うのか」
「どうして、いつもうまくいかないのか」
　こんな気持ちでいると、すべてのことが楽しく思えませんし、何もやる気がおこってきません。まして、仕事をしていても、ミスの連続。友達付き合いも、自分の思う方向とは違い、おかしな関係になっていきます。
　これではいけないと思うのですが、この負の気持ちは変わってきません。忘れようとするのですが、この負の気持ちはなかなか頭から去ってくれません。忘れよう、忘れようと思えば思うほど、より一層負の気持ちが甦ってくるのです。そして、重い気持ちだけをいつまでも引きずっていくことになるいのです。
　こんなとき、どうすればこの負の気持ちから離れることができるのでしょうか。
　禅の言葉に「莫妄想」というものがあります。無学祖元という禅僧が、鎌倉幕府・執権の北条時宗に与えた公案として有名な言葉です。元は、中国唐代の汾州無業という禅僧の話にあります。無業は、生涯、誰が何を尋ねても、ただ「莫妄想」と答えるだけであったと言われています。
「莫」は「なかれ」と読んで、禁止の命令です。妄想というのは、考えても分からないことをくだくだ考えることです。したがって、「莫妄想」とは、考えてもわからないことは考えるなということになります。
　私たちは生きていると、悪いことが生じないことを心の隅で願っています。仕事のこと、人間関係のこと、家族のことなど。なるべく何も起こらず、できればいいことのみが起こることを思って、妄想してしまうです。
　しかし、現実はなかなかそうは行きません。そこで、いろいろ妄想してしまうのです。つまり、妄想は欲なのです。
　考えれば、それらはすべて相手があってのことです。自分一人では何ともできません。そこで悩んでしまい、負の気持ちになってしまうのです。
　だから、「莫妄想」、つまり、あれこれ考えることはやめるほうがいいのです。
　自分の思いを投げ出して、今ある現状を受け入れることです。何とか現状を変えて、自分なりによくしようと欲を出さないことです。今、あるがままをしっかりと生きようとすればいいのです。

■□８月の法話■□

●トマトはトマト

　他人は色々なことを言います。優しいこともありますが、多くは嫌味なことであったり、皮肉なことであったりします。ときには辛辣なことを言ってくる人もいるでしょう。
　たとえば、他人から、「あなたは愚図でのろまだから、駄目なの」と言われたとしましょう。そんな言葉を聞くと、私たちの心には突き刺さるものがあります。それがずうっと尾を引いて、気持ちが落ち込んでしまうこともあります。酷いときには、ずうっと昔に言われた言葉を、普段は忘れているのに、時に思い出したりします。そうすると、気持ちが暗くなり、何もする気がしなくなったという経験は、皆さんの中にはあるのではないでしょうか。
　こんな気持ちになったとき、皆さんはどうされるのでしょう。
　詩人であり、書家でもあった相田みつを（一九二四～九一）に、次のような詩があります。

　　トマトがねえ
　　トマトのままでいれば
　　ほんものなんだよ
　　トマトをメロンに
　　みせようとするから
　　にせものになるんだよ
　　みんなそれぞれに
　　ほんものなのに
　　骨を折って
　　にせものになりたがる

　この詩は、あなたはあなたのままでいい、無理して別人になろうとする必要はないと言っています。他人から愚図でのろまと言われたとしても、あなたは愚図でのろまのままでいいということです
　とは言っても、私たちは、他人からの辛辣な言葉に傷ついてしまうのが現実です。そんなとき、私たちは、今の自分を変えて、違う自分になろうとするか、今の自分を受け入れるか、この二つの方法のどちらかを選ぶはずです。前者であれば、強い人間になろうと努めようとします。だが、そう努力したとしても、愚図でのろまな点は直そうと思っても、そう簡単にはできることではない。逆にその現実と思いのずれが生じて、また悩み、苦しむはずです。後者は、今の自分を受け入れるということは、現状を認めて、今が肯定できるので、楽に生きることができるはずです。
　相田は、愚図は愚図でいいと言っています。ひょっとしたら、それがあなたの個性かもしれません。私たちは愚図は愚図で、本当は幸せなんです。また、そう信じて生きることが幸せなんです。
　だから私たちは、今ここを他人に何と言われようと、幸せと思って生きればいいのです。自分を変えようと努力する必要はありません。愚図が治ったところで、幸せになるとは限らないはずです。愚図は愚図で結講と、開き直って生きてみてはどうでしょうか。

■□７月の法話■□

●イライラや腹立つときには

　私たちが他人に対してイライラしたり、腹が立つときは、どのようなときでしょうか。
　たとえば、目下の者は、目上に敬語を使うべきだとか、事故で、電車が定刻に来ないとか。「普通だっら、こうではないの」と社会や自分で決めた暗黙のルールを、相手が破ったときにイライラしてしまうのではないでしょうか。
　考えてみれば、私たちは知らないうちに、自分のルールを「当然のもの」として思い、それを他人に押しつけています。そして、相手がその通りにしないといって、自分の感情をかき乱しているのです。
　しかし、ちょって考えてみてください。自分のルールはどう形づくられたのでしょうか。
　そのルールは、私たちが生まれ、育ったなかから培われてきたものです。親から教えられたり、先生から教えられたり、本から学んだり、いろいろなことからできあがったのが今の自分たちが思っているルールのはずです。つまり、私たちは、「こうなくてはならない」というルールに束縛されているのです。
　仏教から言えば、「こうなくてはならない」というのがまさに「こだわり」なのです。ただでさえ私たちはこの「こだわり」に束縛されているにもかかわらず、その「こだわり」を他人に適用し、その「こだわり」によって他人を裁いています。
　そして、他人を裁けば裁くほど、私たち自身がますます強くその「こだわり」を意識し、それに束縛されるはめになります。自縄自縛になっているのです。
　まあ、ともかく、私たちは窮屈な生活をしているのが現状です。「こうなくてはならない」といった「こだわり」に束縛されているのです。束縛されているのではなく、自分で自分を束縛しているのです。
　では、どうすればなるべくこの束縛から抜け出ることができるのでしょうか。
　禅の言葉に、「日日是れ好日」というものがあります。禅の語録『碧巌録』に出てくる言葉です。お茶席などでよく目にする言葉です。ただ、この言葉は、いつもいい日であるように語解されています。しかし、この好日とは、よい日や楽しい日ではありません。禅では、この言葉を自分へのこだわりを捨てよ、そしてまわりと自分を一体化させ、今日という日をありのままに受けとめよという意味で使います。つまり、自分のこだわりを捨て、今日をありのままに受け入れて生きよという教えなのです。
　そうはいっても、「こだわり」を簡単になくせる方法はありません。こだわりをなくそうとすれば、かえってこだわりをなくすことにこだわってしまうからです。
　まあ、難しいことは考えず、イライラしたときは、とことんイライラし、腹が立つときには、思い切って腹を立ててみればいいのではないでしょうか。そして、後はさらりと忘れてしまう。それが私たちには一番いい方法だと思います。つまり、いつまでもイヤな思いをひきずらないことです。

■□６月の法話■□

●智慧有る人

　二、三日前から、ものを噛むと上の歯に変な違和感がありました。痛むほどでもないのですが、ズキッとする感じ。ものを食べても、食べた感じがしないのです。それでも、しばらく放っていたのです。僕としては、歯医者にできたら行きたくはないからです。
　ただ、歯のことですから、放っていても、治ることはないはず。そこで、なにげなしに妻に言うと、歯医者に行ったらと言われてしまいました。
　イヤな気持ちを抑え、意を決して、昨日、歯医者さんに行ってきました。虫歯と思っていたら、先生からは、「歯周病です。歯茎が細くなっているので、抜いたほうがいいでしょう」との言葉。しぶしぶ承諾。麻酔をかけられ、先生の手が逼ってくると、肩に力が入ってきます。歯が抜かれていくと、痛みは襲ってきます。まさに拷問のようです。痛いといっても、「もう少し」と言われ、やっとのことで歯は抜かれていました。
　あの時のイアヤという気持ちはどこへやら、今日はそのお陰で、口の中は楽な感じです。と言うことで、今原稿を書いています。
　私たちの体は機械でないので、どんなに気をつけていても、病は襲ってきます。まして、六〇年以上も使ってきた体です、当然どこかが痛んでくるはずです。今回の歯の件も、歳なので、そうなったのでしょう。
　そうは思っているのですが、現実にはたった一本の歯で右往左往の状態です。
　ところで、江戸時代の禅僧の白隠慧鶴に『遠羅天釜』という本の中に、白隠が師である正受老人の言葉を引用して、病気の僧に宛てた書簡の中に次の言葉があります。
「世に智慧有る人の病中程浅猿しく　物苦しき事は無きことなるぞや」
　智慧有る人というのは、世間的な意味の智恵、つまり小賢しい分別です。なまじちょっとした分別の智恵を持った人が病気になると、あさましく、見苦しい動きをするものだ。と。つまり智慧有る人というのは、欲望の人なのです。欲があるから、あきらめられないわけです。逆に、あきらめることさえできれば、あまりあさましく、見苦しい動きをしないですむということです。
　そんな意味で言えば、私たちのほとんどが「智慧有る人」ではないでしょうか。安らかでありたい、これでいいという安心を得たいと僕をふくめて皆さんは思っています。しかし、この安心を得たいという気持ちこそ、自分の心を乱す大きな原因なのです。このことによって、あれこれ考え、妄想をたくましくして悩み、苦しんでいるのです。
　私たちには、生きている限り、悩み、苦しみはあります。生身のからだを持っている限り病気にもなるし、具合も悪くなるのです。それは自然の摂理でしょう。
　大事なことは、それらをすべて避けることなく、しっかり受け止めていけばいいのです。生きている限り、悩み、苦しみはあたりまえと、あきらめることができればいいのです。それができないから、右往左往してしまうのです。
　白隠から、「歯を一本抜かれることぐらいで、右往左往するな」と言われそうです。痛いこともあたりまえ。余計なことは考えるなでしょうか。今回の教訓でした。

■□５月の法話■□

●怠けたい気持ちが起こったら…

　私たちは、生きていると、やらなければならないことが、多々あります。サラリーマンであれば、会議の資料作りや、取引先への連絡など。主婦の方であれば、掃除、洗濯、ご飯の用意、後片付けなど。私の場合であれば、朝のお勤め、庭の掃除、お参り、部屋の掃除、頼まれた仕事などがあります。
　それらは、自分でやりたいことではなく、やらなければいけないことです。そうしなければ、私たちは生活が出来ない状態になってしまいます。
　しかし、そこは人間です。やはり、目の前にやらなければならないことがあっても、ついつい怠けたい気持ちにかられることもあります。
　生きものものたちも行動も、私たち同じように、ほとんどが怠けたいが、生きるためには嫌々いろんなことをやっていると思えるのです。
　たとえば、鳥です。天敵から身を守ったり、食料を調達するために、嫌々飛んでいるはずです。なぜなら、天敵のいない孤島にいる鳥は、自ら飛ぶことをせず、いつしか飛ぶ能力を失ってしまうているからです。
　つまり、怠けたいという気持ちは、生きもの皆が持っている欲望であって、決して無くすことはできないものなのではないかと思われます。ただ、怠けていると、生きることができなることも事実です。
　では、どうすればいいいのでしょうか。
　山登りをするとき、「とにかく足下を見つめながら登れ」という話を聞いたことはないでしょうか。山の頂上を見てしまうと、その道のりに圧倒され、「ああ、あんなに遠いのか。無理だ。もう、やめてしまいたい」と考えるようになるからです。
　だから、山登りのときは、いろいろ考えることをせず、とにかく足下を見つめ、最初の一歩を出し、そのまま次の一歩を出すことが大切なことなのです。その繰り返しによって、気がついたら頂上に到達していた。そんな登り方が登山のコツなのでしょう。
　ここに、怠けたい気持ちを克服するヒントがあるようです。
　怠けたい気持ちが生じたら、考えれば考えるほど、私たちには「やりたくない」という思いばかりが膨らんできます。そして、結局何も行動できなくなってしまいます。
　だからこそ、こんあ時には逆に何も考えず、とにかくやってしまうことです。簡単ではないですが、意識さえしていれば、誰にだってできることです。
　もし、「やらなきゃいけないことがある。でもやりたくない」と思ったら、その瞬間に考えるのをやめ、とりあえず行動に着手してみることです。
　その一歩を踏み出せば、怠けたい気持ちもどこかに飛んでいってしまうでしょう。くよくよ考える前に、一歩を出す。それが一番大事なのことです。
　では、私はごちゃごちゃ考えずに、庭掃除を始めます。

■□４月の法話■□

●こだわりを捨てて

　仏教の教えの核心は、「執着」を少なくすることです。なぜなら、苦しみは欲望・執着が大きいから起きるものと仏教では考えるからです。執着とは、簡単に言えば、「こだわり」と言うことです。
　自分を振り返っても、いろいろなこだわりがあります。例えば、京都にいますから、外人の観光客を見ます。バスに乗った時、彼等は皆、大きなスーツケースを持ち込んで、乗ってきます。少人数であればまだいいのですが、一〇人近くの人がスーツケースを持ち込まれると、バスの通路は一杯。降りる時に、一苦労をしてしまいます。どうして、そんなものを持って、バスに乗ってくるのか。マナーがなっていない、けしからんと心の中で、呟いている自分がいるのです。
　そんな時、私はあの良寛さんの逸話を思い出してしまいました。
　良寛さんは、江戸時代のお坊さんで、それも、歴とした禅宗のお坊さんなのです。
　その良寛さんの庵に、ある日、旅人が訪ねて来ました。そこで、良寛さん、「よく来られましたな。まず、足を洗って下さい」と、旅人に水を用意しました。旅人は夕食をふるまわれ、一晩、良寛さんの庵に泊めてもらいました。翌朝、旅人が目を覚ました時、良寛さんはすでに起きていて、旅人が顔を洗うようにと、洗面の水が用意されていたのです。それを旅人はじっと見ています。そこに良寛さんが来て、
「さあさ、どうぞ顔を洗って下さい」と言います。旅人は気になることがあるので、質問しました。
「良寛さん、ここにあるのは昨夜の鍋ではありませんか」
「ああ、そうだよ」
「では、この鍋は、昨晩のお粥をたかれた鍋ですよね」
「ああ、そうだよ」
「じゃあ、この鍋は、わたしが最初に来たとき、足を洗わせていただいた鍋ですか」
「ああ、そうだよ。それより、早く顔を洗いなさい。その鍋で、朝のお粥をつくらねばならないのだから」
　良寛さんは、旅人の気持ちなどおかまいなしに、朝ご飯をつくられたというお話です。
　良寛さんは、鍋一つでもって自由に、のびのびと、おおらかに生られています。それに引き替え、私たちはどうでしょう。足を洗った鍋ではご飯が炊けないと思っていないでしょうか。鍋は洗えばきれいなもの。それを、足を洗ったからきたなくて、それを洗ったとしても、その鍋でお粥を炊くなんてと思ってしまうのです。これが、私たちの中にある、こだわりという正体でしょう。
　私が観光客に抱いた思い。これも考えてみれば、自分勝手な思いに縛られているということだったと気づきます。自分の中で培われた、なんらかの規準に、こだわっているだけなのです。
　これでは、自分のこだわりよって苦しむだけです。ほんのちょっと、こだわりを捨てて、良寛さんのようにのんびりと生きませんか。

■□３月の法話■□

●死にともない

　私ももう六十歳を越える年齢になってしまいました。思えば、父の亡くなった年齢より、大分長生きをしたことになりました。
　とは言え、これから先、何年生きるられるのかと思うと、毎日がいいとおしくなってくることがあります。それは、いつか人間は死ななければならないということがあるからだと思われます。
　死ということは誰しも経験したことはないことなのです。いや、肉親の臨終を看取ったと言われるかもしれません。しかし、それは自分以外の死です。自分以外の死は経験があるのですが、自分が死ぬということは、もう意識もなにもすべてがなくなってしまうことですから、経験などはできないからです。
　だから、私たちは時に死は怖いものと感じてしまうのでしょう。死が恐くない人など、誰一人もいるはずないと思います。
　そこで、私たちは安らかに亡くなりたいとか、迷惑をかけずに亡くなりたいといった願いを持ってしまいます。多分、それは人間、死ぬときは美しく死ななければならいないという思い込みによっているのではないでしょうか。
　では、禅の教えでは、どう考えているでしょうか。江戸後期の臨済宗の僧の仙厓義梵の話です。
　仙厓が臨終を迎えたとき、弟子がを遺偈をお書き下さいと言いました。禅僧は臨終のときに、今の境地を漢詩にして残すことになっていたからです。そこで仙厓は、
「死にともない、死にともない」
　と言ったのです。弟子は困ってしまいました。
　そこで、弟子は、
「なにを言われるのですか。そんな見苦しいことを言われてはいけません。もう少しすばらしい言葉を言ってください」
　と頼みました。すると仙厓は、
「ほんまに、ほんまに」
　と言ったそうです。
　臨終にもかかわらず、ほっとする言葉ではないでしょうか。仙厓は、人間、死ぬときのことはどうでもいいと言っているのです。苦しみながらであろうと、認知症であろうと、ガンでのたうっちまわってであろうが、死ぬときは死ぬということなのです。私たちが思い込んでいる、安らかに死たいとか、迷惑をかけず死にたいとかなど、ごちゃごちゃ考えるなと仙厓は言っているのです。それより、私たちは死ぬまで生きています。その毎日を大切に、しっかり生きることが大切だということです。
　そのような教えが、禅そして仏教なのです。

■□２月の法話■□

●「ぼちぼち」の生き方

　私たちの周りに次のような方はいませんか。いや、この法話を読んでる方かもしれませんが、……。
　何に対しても、まじめに取り組む人です。
　「人間、怠けてはいけない。まじめに努力せねばならない」と思い、自分自身にそういう生き方を強制して、粉骨砕身、努力に努力を重ねてきた人です。
　たとえば、会社で言えば、模範社員でしょうか。勤務する会社の期待に応えようと、ひたすら頑張ってしまう人です。昨年のテレビで人気があった「下町ロケット」の社員のようです。
　会社は私たちに会社に尽くす社員になって欲しいと「期待」しています。そのような社員とはどういう社員か、明確な規定はされていません。明文化されて命令されているわけではないのに、私たちは勝手に想像して、そのような模範社員になろうとして、がんばってしまうのです。
　ただし、そのような社員になれない人もいます。そこで悩んでしまうのです。
　他人や会社は、私たちに何を期待しているでしょうか。みんなのため、会社のために犠牲になってくれることを期待しているだけです。まじめ私たちは、そんな期待に応えようとして、毎日毎日をあくせくし、そしていらいらしてしまうのです。そして、しんどくなってしまうのです。
　そんな生き方はおかしいと思いませんか。
　私たちの人生は、たった一度のものです。もっと自由に、おおらかに生きたいのではないでしょうか。
　では、どうすればいいのでしょうか。
　まじめな人は、世間の常識に縛られています。世間の道徳というものに縛られています。つまり、社会的規範というものの重圧に喘いでいるのです。
　だから、「ほどほど」にと言いたいですね。「ほどほど」は、辞書では、「①あまり度を越さない程度。ちょうどよい程度。適度。②身分相応。身分身分」とあります。仏教で言えば、「中道」にあたる言葉です。簡単に言えば、ゆったりと努力することです。　それには、私たちは私たちなのだという自覚が必要です。
　考えてみてください。なにも他人にほめてもらうために人生を生きているのではありません。他人にほめられようが貶されようが、自分の人生をしっかりと生きればいいのです。このことをもう一度思い出してみてはどうでしょうか。
　ただし、これは怠けていいといっているのではありません。ゆったりと努力することは必要です。
　自分の人生です。おおらかに生きましょうよ。

■□１月の法話■□

●独坐大雄峰

　新年明けまして、おめでとうございます。本年も法蔵禅寺ホームページをよろしくお願いいたします。
　皆さんにとって昨年はどのような年だったでしょうか。また今年はどのような年になるでしょうか。
　いろいろあったかもしれませんが、今年もなんとか与えられた人生を生きていきましょう。
　今年初めの法話は「独坐大雄峰（どくざだいゆうほう）」という禅の言葉です。
　中国の禅僧・百丈懐海にまつわる次のような公案があります。公案とは、過去の優れた禅僧たちの言葉や事績から取られています。つまり、過去の禅僧はこう言った、こう行動したが、なぜそう言ったのか、そんな行動をしたのかを修行者に考えさせる話です。
　ある僧が、百丈禅師に、「如何なるかこれ奇特の事」と尋ねました。
　百丈は答えます。「独坐大雄峰」と。すると、その僧は礼拝しました。ところが、百丈はすかさずその僧を打ちのめした、という話です。
　皆さんにはこの話は何のことを言っているのか、ちんぷんかんぷんではないでしょうか。それが公案と言えばそれまでなので、そこで、解説をさせて頂きます。
　奇特とは、すばらしい、ありがたいという意味です。「すばらしいこととは何でしょうか」と、ある僧が百丈に問うと、百丈は「独坐大雄峰」と答えます。大雄峰というのは、百丈が住んでいた大雄山のことですから、「私はこうして大雄山に独り、どかっと坐っているだけだ」ということです。
　つまり、百丈が言っていることは、「私は世間から完全に自由になって、独りでこの山に坐っている、これこそが最高にすばらしいことだ」ということです。
　もっとわかりやすく言えば、私たちが今・ここを生きていることが、すばらしいということです。たとえば、朝、目が覚めること、食事が頂けること、仕事ができること、……。このようにあたりまえなことが、すべて素晴らしということなのです。
　ところが、私たちはどうでしょう。素晴らしいことと言えば、お金があるとか、地位が高いとか、健康で長生きできているとか、……。考えてみれば、これらはすべて、世間的な価値でしかありません。それらは相対的な素晴らしさでしかない、つまり、本当にこの世において確かなものではないのです。にもかかわらず、私たちは、お金とか、何か物が得られることがありがたい、素晴らしいことであると勘違いをしているのです。
　本当にありがたく、素晴らしいことは、今まちがいなくここに生きて坐っていること、立っていることです。百丈のように、一つ一つのあたりまえな価値を認識し、自覚して、ありがたいなあ、尊いなあ、素晴らしいなあと感じられることこそ、真実の幸福を得られるということです。
　外ばかりを見つめるのではなく、今・ここの自分をもう一度見つめ直してみませんか。

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