法蔵禅寺HOMEPAGE・今月の法話（２０２０）

　

■□１２月の法話■□

●悟りといふ事は……

　私たちは生きていると、自分にとって不都合な災難に遭うことがあります。今のコロナの感染拡大の状況はまさにそれにあたるかもしれません。
　災難はこれだけではないでしょう。地震もあれば火災も水害もあります。会社が倒産するのも災難ですし、病気になることも災難になるでしょう。
　そこで、私たちは災難に遭いはしないかと怯え、心配をしますが、その心配は無駄ではないでしょうか。
　例えば、虫歯になっても、歯医者に行くのはいやでいやでたまらいなことはないでしょうか。いやなので、一日延ばしにしてしまいます。しかし、痛みがひどくなるとやはり歯医者に行かざるをえません。実際、思い切って、行き、治療を受けた後は、「なんだ、こんなものか……」と思うのです。これぐらいであれば、いやがる必要はなかったし、早く行けばよかったと思うぐらいです。
　つまり、歯の治療そのものよりも、歯医者に行かねばならないといった思い、考えに悩まされていたのです。
　災難についても同じではないでしょうか。私たちは災難そのものに苦しめられるのではなしに、災難に対するいろんな思いや考えで苦しんでいることのほうが多いようです。
　ところで、明治時代の俳人、正岡子規（一八六七～一九○二）に次のような言葉があります。
　「余は今迄禅宗の所謂悟りといふ事を誤解して居た。悟りといふ事は如何なる場合にも平気で死ぬる事かと思つて居たのは間違ひで、悟りといふ事は如何なる場合にも平気で生きて居る事であつた」（『病牀六尺』）
　彼は脊椎カリエスのため、三十歳になる前から死ぬまで、ほとんど病床にありました。これは、彼がある日、病床で忽然と気がついた時の言葉です。
　どんな人間も、死ぬまでは生きています。だから、平気で生きようということは、病気でのたうちまわって生きねばならぬ時には、のたうちまわって生きるしかない。そして、のたうちまわりながら死んでいくのです。それを、慌てて騒いだり焦ったりしないで死なねばならぬと考えていたのでは、平気で生きられません。苦しみながら死のうが、のたうちまわって死のうが、そんなことはどうだっていい。生きているあいだの毎日毎日が大事だということです。
　老いたら老いたで、病気になったら病気になったで、それらすべては因縁によって与えられたもの。だから、それらをしっかり受け止め、日々を生きればいいのです。
　災難に遭う前にびくびくしたって仕方がないと認識しておきましょう。事前の心配、悩みは無駄。物事はなるようにしかならないからです。
　そのように思っていれば、だいぶ違ってくると思います。よけいな取り越し苦労をせずに、日々を楽しんで生きましょう。

■□１１月の法話■□

●うちにはいい肉ばかり

　今、コロナ禍の中でうつ病になっている方が多いと言われています。それまでも、うつ病に罹患している人が増えてるとは聞いていましたが、このコロナ禍の状況でより増加しているようです。
　うつ病の原因としては、心理的なストレス、脳内の変化、体質の三つがあり、これらが重なって、うつ病を引き起こしていると考えられているようです。
　私たちは、物質的には豊かな状態にあります。にもかかわらず、心は満たされない。人間関係は希薄になり、自分ひとりだけが不幸せだと思い込んでしまって、悩んでしまうのではないでしょうか。その結果が、うつ病として現れているのかもしれません。
　私たちは安らいだ人生を送りたいと願っています。しかし、そうなりたいと思いながら、心を悩ませるものがあります。それは、自分の思う幸せイメージ（お金、社会的地位、名誉、恋人、良き伴侶、素敵な家、健康などを手に入れること）にならなければいけないといった思い込みです。あるいは、こだわりと言っていいかもしれません。それが、私たちの心を悩ませてしまうものなのです。
　では、どうすれば悩みから解放されるのでしょうか。
　ヒントはいつものように禅の話です。中国の禅僧に盤山宝積という方の話です。
　ある日、盤山が町を歩いていると、肉屋で肉を買っている客を見かけます。その客は肉屋の主人に、「この店で一番いい肉をくれ」と言いました。
　すると、肉屋の主人は、「「お客さん、うちにはいい肉ばかりだ。悪い肉など置いていないよ」と怒って言い返したのです。
　それを聞いて、盤山和尚ははっと悟ったという話です。
　この話は私たちに次のようなことを教えてくれています。私たちは物を見るとき、これは上等、これは下等と区別して見ています。確かに、生活をしていると、そういう区別は必要でしょう。ただ、そんな区別の見方ばかりしていると、ついには無用な差別をしかねない。だから、無用な差別はしないように考えなさいということを教えているのです。
　私たちは生きていれば、常に選択をし続けています。何をするにも選択なのです。だから、私たちは時に選択を間違え、失敗することもあります。ただ、選択を誤ったからといって、その選択を変えずにいくことないのです。間違ったと思えば、変えればいい。そこで、敢えて変えようとしないのは、「ここでやめると格好が悪い」とか、「人に迷惑をかける」とか考えてしまう。それは、見栄や執着などあるからです。そこで、悩み、挙げ句の果ては、うつ病までになってしまうのではないかと思います。
　どちらの道を取ろうかと私たちは考え抜いて選んだとしても、「こんなはずじゃなかった」と思えることは多々あるのではないでしょうか。自分にとって、いいことばかりがあるわけでは無いからです。いい・わるいは私たちが勝手に頭の中に作り上げたもの。だから、人生、何が起きてもかまわないという気持ちで生きたらどうでしょう。今の状況をありのまま受け入れれば、悩みはどこかへ消えていくのではないでしょうか。

■□１０月の法話■□

●すべての現象は、「私たちの心」がつくりだす

　私たちは生きていく中で、さまざまな不安や心配事を抱えています。不安などまったくなく、いっさいの心配事もない、そんな人はいないと思います。
　大きな不安から小さな心配まで、程度の差はあるでしょうが、いずれにせよ、これらとつき合いながら生きていく、それが私たちの人生というものです。
　常にいくつかの心配事を抱えている。それは生きるうえで仕方のないことかもしれません。ただ、必要以上に振り回されてはいけません。
　寝ても覚めても、不安感に苛まれていれば、やがては心が病んでしまいます。不安はありますが、それにばかり目をとらわれずに、少しの距離を置いて眺めてみることが必要ではないでしょうか。
　「一切唯心造」という禅語があります。「一切は唯だ心が造るものなり」と読みます。意味としては、すべての現象は、「私たちの心」がつくりだしているもの、ということです。
　考えてみれば、不安や心配というものには実態がありません。
　たとえば、今私たちが抱えている心配事を並べてみてください。
　今で考えれば、新型コロナ禍のことです。まず、外に出たら、ひょっとしたらコロナに感染するのではないか。そうなると、入院。テレビなどを見ていると、重症化したら……。いろいろと悪いことが頭の中に浮かんでくるのではないでしょうか。
　しかし、考えて見て下さい。それらの思いは、「未だ起こっていないこと」ばかりです。現実に起きていないのですから、それらは想像の世界の話です。自分が勝手に想像して、不安になっているだけのこと。
　もしも大きな病気に罹ってしまったらどうしようと私たちは不安に思います。その気持ちはよく分かりますが、今は健康であるのに、将来の病気のことばかりを考えている。そんな心配ばかりしていたら、それこそ病気のほうから近づいてきます。
　今が健康であるなら、それに感謝をしながら一生懸命に毎日を過ごせばいい。不幸にして病気になってしまったら、そのときに考えればいいことです。
　実際に病気になってしまったら、もう不安がっている暇などありません。その病と向き合っていくしかないのです。
　そして人間には、それに立ち向かうだけの力が与えられているのです。
　あれこれと不安をつくるのではなく、今という瞬間に目を向け、ただ生きていきましょう。

■□９月の法話■□

●戒のある生活

　昔の中国の話です。
　詩人の白楽天が郡の長官となって杭州に赴任した時、その土地の有名な禅僧である道林和尚に遇い、質問をしました。「仏教の教えの大意は何でしょうか」と。すると道林和尚は、すかさず、「悪いことをするな。いいことをしろ（諸悪莫作、衆善奉行）」と答えました。「そんなことは、三歳の童子でも知っています」と、白楽天。しかし、道林和尚は言います。「実行することは、八十の私にだってむずかしいぞ」と。
　このように仏教が教えているのは、「悪いことするな。いいことをしろ」ということです。そして、私たちが悪いことをしないように、「戒」が制定されています。
　ところで、仏教の戒には、五つあります。

　１．不殺生戒……生き物を殺さない。
　２．不妄語戒……嘘をつかない。
　３．不偸盜戒……盗まない。
　４．不邪婬戒……みだらなセックスをしない。
　５．不飲酒戒……お酒を飲まない。

　この五つが、仏教の基本的な「戒」です。
　ただ、いくら「生き物を殺さない」と言われても、私たちは食事を摂らなければ生きてはいけません。また、私たちにとってイヤなハエやカ、ゴキブリにいたるまでの命を奪ってはならなといことになります。「嘘をつかない」ことを徹底すれば、お世辞も言えないでしょう。また、夫が（妻が）がんになったようなとき、それを正直に告知できるでしょうか。本音だけを話していたら、人間関係はたちまち壊れてしまうでしょう。
　注意していただきたいのは、「戒」は「いましめ」であって、それを破ったからといって罰が与えられるわけではないということです。不殺生戒は、私たちが無用な殺生をしないようにしようと心がけるものです。そのように努力することが求められているのであって、その人がかりに生き物を殺したとしても、罰があるわけではありません。
　仏教の戒は、私たちが戒を完全に守れない弱い自分であるということを自覚し、そういう弱い自分が生きるために、多くの命を犠牲にしていることに気づくためにあるものなのです。
　そうだから、私たちは、自然に「すまない」「申し訳ない」といった気持ちが出てくる。つまり、「懺悔」することができるのです。そして、いろいろな縁によって、「生かされている自分」を知るのです。
　こう言ったとしても、私たちはすぐに、「生かされている」ということを忘れ、あたかも自分だけで生きていると思ってしまいます。
　私たちは、戒によって、それが守れないものであることを知り、いろいろな縁によって生かされていることを初めて自覚できるのです。それが、戒のある生活を送るということです。

■□８月の法話■□

●逆境もよし

　二月頃から言われ出したのが、「新型コロナ・ウイルス」の感染です。私たちは、マスクを付けるのが日常化し、感染拡大を予防するために、｢新しい生活様式」を守りながら生活を送るようになっています。ただ、非常事態宣言の終了に伴い、他府県との交流が増えてくるに従い、徐々に感染者が増えていく状況になっています。
　多くの人々は、不安を抱えているようです。特に、サラリーマンの方々は、自分の意志とは関係なく、このコロナによって、ひょっとしたら、収入が減り、リストラに、そして倒産してしまうのではないかと不安を感じているのではないでしょうか。
　とは言え、二月以前の生活はもう戻ってはこないかもしれません。しかし、それは当然のことなのです。
　仏教には、「諸行無常」という言葉があります。この世の中のありとあらゆるものはつねに移ろい、一瞬たりともとどまっていることはない、という意味です。つまり、私たちはいつも変化の中で生きているということです。
　ただ、私たちは、よい変化は喜んで受け入れるのですが、悪い変化は受け入れがたい、というところが本音ではないかと思います。
　しかし、現実には、私たちの思いとは関係なく、悪い変化になる時があります。まさに、今がそうでしょう。そして、マイナスの気分がどんどん高じていき、心は負の袋小路に入りつつあります。
　こんな時、私たちはどう考えればいいのでしょう。
　パナソニックの創業者だった松下幸之助さんに次の言葉があります。
「逆境もよし、順境もよし、要はその与えられた境遇を素直に生き抜くことである」
　逆境もよしなのです。順境だろうが、逆境だろうが、そのときどきを逃げずに頂き、素直に生きていくことが、人生をまっとうする道ということです。
　禅にも同じような意味をもつ、「日日是れ好日」という言葉があります。これは毎日がよい日ばかりだという意味ではありません。人生には晴れの日もあれば、雨の日もあります。しかし、いずれの日にも、私たちはその日でなければできない、かけがえのない経験を積んでいくことができる。だから、すべてが私たちにとって、「好日（好い日）」なのだ……というのがこの禅語の意味するところなのです。
　境遇が善かろうが、悪かろうが、私たちの生き方を左右するものではありません。私たちの生き方によって境遇はどんなものにでもなっていくということのです。さあ、どう生きますか。

■□７月の法話■□

●正義の怒りを覚えたとき

　新型コロナウイルスの感染が少し収まってきたかと思っていたのですが、自粛緩和からでしょうか、感染者の数字が増えてきたようです。
　感染防止のために、私たちはマスクをつける生活があたりまえになりつつあります。ほぼ体の一部といっていいかもしれません。
　ただ、当寺は京都市内とは言え、食料品を買うスパーが近くにありません。そこで、２０分近く歩いて行くスーパーか、１０分ほど歩いて、電車に乗っていくスーパーしかないのです。まして、最近は気温が上がりつつあります。そこで、歩くときは、マスクを外し、スーパーに入るときに付けるという方法をとっています。
　最近なのですが、テレビなどを見ていると、「マスク警察」という人がいることを知りました。マスクを外して歩いていたらすれ違いぎわに、怒鳴りつけられたとか、公園でマスクを外して遊んでいた子どもが叱責されたということがあるようです。
　マスクは感染防止にとっては必要でしょう。何より大切なのは言うまでもありません。ただ、常軌を逸している「マスク警察」の行動を見ていると、いかに独りよがりな「正義」で、ただのうっぷん晴らしに過ぎなのではないかと思えてくるのです。
　ところで、みなさんは多分、阿修羅というもの知っていると思います。奈良の興福寺にある阿修羅像と言えばお分かりでしょう。
　インド神話に、正義の神のアスラと力の神のインドラという神が登場します。アスラには美人の娘がいました。アスラは力の神と正義の神が結合すると、理想の世界ができるだろうと考えて、娘をインドラに嫁がせたいと願っていたのです。
　アスラの娘は絶世の美女であったので、傍若無人の性格であったインドラは、暴力でもって彼女を犯してしまった。そしてインドラは、自分の宮殿に連れ帰ったのです。
　怒ったのは父親のアスラ。それでアスラはインドラに戦闘を挑んだのですが、アスラは負けてしまいます。しかし、負けても負けても、アスラは闘いつづけます。そのうちに、面倒になったインドラは、ついにアスラを神々の世界から追放してしまったのです。その結果、仏教は、インドラを帝釈天と呼んで、護法の善神とし、アスラを阿修羅と名づけて魔類にしてしまったのです。ちなみに、その後、インドラとアスラの娘は仲のいい夫婦になったということです。
　この話に納得できない現代の人は多いでしょう。父親としてアスラが怒るのは一般的にはもっともなことです。ただ、仏教で問題にするのは、アスラが過去の怒りを根に持って、みずからの正義にこだわりつづけ、インドラを許せないでいることです。なるほどアスラは正義なのです。しかし、正義にこだわりつづけると、人間は阿修羅になってしまうということを、仏教は言っているのです。
　私たちが、正義の怒りを覚えたときは、ひょっとしたら、阿修羅の正義ではないかと反省すべきでしょう。正義、正義とこだわるほど、私たちは狭量になります。そして、相手に対して残酷で薄情になってしまいます。まさに、ひとりよがりになっているのです。　マスク警察（阿修羅の正義）は、ひょっとしたら、誰の心の中にもあるかもしれませんね。ご注意、ご注意を。

■□６月の法話■□

●親しき仲にも礼儀あり

　新型コロナウイルスによる感染症。その対策として、よく耳にするようになったのが、「三密」、「ソーシャルディスタンス」という言葉です。
　三密とは、密閉、密集、密接から名づけられた言葉です。密閉は、窓がなかったり換気ができなかったりする場所のこと。密集は、人がたくさん集まったり、少人数でも近い距離で集まること。密接は、直ぐ近くで会話や発声、運動などをすることのようです。　この三つが、集団感染が起こった場所の共通点を探したら、この三つの密が共通となっていたので、控えるようにしたと言われています。
　それに、ソーシャルディスタンス（社会的距離）です。ウイルスを保有しているにもかかわらず無症候の方もいます。無症候の場合、自分がコロナウイルスに感染していると考えずに人に接触をしてしまうということもあります。そこで、相手への感染を防ぐということから、社会的距離の確保、人的接触距離の確保として、ソーシャルディスタンスという考え方が言われているようです。
　このソーシャルディスタンスという言葉から、思い出すことがあります。ショーペンハウエルの『随想録』に収められた有名な寓話で「ヤマアラシのジレンマ」というものです。　寒い冬の日、オスとメスのヤマアラシがいました。二匹のヤマアラシはお互いの体温でもってからだを温め合おうとしました。ところが、ヤマアラシには身を守るトゲがあります。トゲが邪魔になって抱き合うことができなかったのです。
　しかし、トゲをとってしまえば、彼らはすぐに肉食獣の餌食にされてしまう。仕方がないので、お互いの間に距離を置いたのですが、愛しい相手にまた近寄りたくなってしまいます。
　しかし、近寄るとやっぱり、ハリが体に刺さって痛いのです。まさにジレンマです。　そんなことを何度かくり返した後、ようやく二匹は、ハリが体に刺さらないで相手の存在を感じられる、ちょうどいい距離を見つけ出したのです。
　このことは、人間関係にも言えそうです。人間にもトゲはあります。「自我」という鋭いトゲです。そういう意味で言えば、私たちはどんなに思っても、本当は他人とぴったりと一つになれないはずです。だから、私たちは、ある程度距離を置いて、上手に他人と付き合っていくよりほかないようです。
「親しき仲にも礼儀あり」という言葉があります。これは、つい親しくなりすぎると、トラブルが生じやすくなることから生まれた言葉ではないでしょうか。
　周囲の人とぶつかりやすい、親しい人に傷つけられたり傷つけていたり、人間関係のトラブルで悩んでいる人が多くいるはずです。ソーシャルディスタンスと言われている今こそ、相手との距離の取り方を見直してみてはどうでしょうか。
　ベタべタといつもくっついていることが、いいとは限りません。人間関係でぶつかってしまうなら、少しだけ離れてみることも大切なはずです。まさに、ソーシャルディスタンスは今までの人間関係を振り返る、いいチャンスかもしれません。

■□５月の法話■□

●自粛を楽しんでみませんか

　新型コロナウイルスの感染で、非常事態宣言が出されました。そこから、私たちは５月６日まで自粛の生活を送るというものでした。しかし、その時点では感染の終息が見えないということで、５月３１日までその生活が延長となってしまいました。今まで、この一月、自粛をすれば何とかなると思っていた私たちにとって、ゴールに着いた途端、あと１００メートル走って下さいと言われた感があったのではないでしょうか。
　そんな出口が見えない状況の中で、大阪府知事の吉村さんの今回の出口戦略「大阪モデル」（７日間連続で陽性率など、３つの基準を下回っていれば、段階的な解除の提示）は、京都に住んでいる人間にとっても一縷の望みように思ってしまいました。同じ自粛するにもこの「大阪モデル」は分かりやすく、私たちの行動の目安ができたようです。
　ところで、禅には「禍は慎家の門に入らず」（『従容録』）という言葉があります。意味としては、慎み深く暮らしている家には、災いは訪れない、ということです。
　この「慎む」という言葉は、いくつかの意味があります。『大辞林』には、①あやまちのないように、行動を控えめにする、②度がすぎないようにする、③神仏・貴人などの前でかしこまった態度をとる、などの意味をあげています。
　つまり、「禍は慎家の門に入らず」もいろいろ解釈ができそうです。
　一つは、慎重にという解釈。不幸が起こらないように、いつも注意深く、自分や家族の生活を見詰めて、少しでも不幸の気配がしたら、その芽を摘んでおくと、それが家の中まではいってこないということです。
　もう一つは、欲張らず、最低限のもので満足して暮らす、という解釈です。私たちは、今まで、余計なものを買ったり、食べたりしていたと思います。だがら、今の自粛という生活は何か不自由さを感じているかもしれません。それらをあえて、今、あるもので満足するということです。
　どちらの解釈であっても、困難を避けるのに役立ちます。ただ、あまりに厳しく、食事を切り詰めたり、四六時中気を張って「なにか悪いことが起きないか」と注意しているのも、心が疲れてしまうでしょう。それがストレスになり、家族の関係がギスギスしてしまってはどうしようもありません。
　ですから、「禍は慎家の門に入らず」という言葉には、「欲張らない。油断しない。そして、余裕を持って、その生活は楽しく過ごす。それが、悪いことが家に入っていないことになる」という意味があると思います。
　自粛は、慎み深く暮らすものですが、その中に余裕を持って生活すれば、楽しく生きられるのではないでしょうか。
　雨は続きません。いつか晴れる日まで、自粛を楽しんでいきませんか。

■□４月の法話■□

●家にいましょう…寒いときには寒さに

　私たちの住んでいる日本は、今、新型コロナウィルスの感染拡大のために、いろいろな面で苦しい状態にあります。
　例えば、商売をされている方々は営業自粛を、一般の人々も行動の自粛を要請されています。また、学校が休校になったために、働いていたお母さんたちも仕事を一時辞めて、自宅にいないといけないといいます。
　感染の影響で、今までとは、違う生活になったのは、事実でしょう。しかし、あまりにもその思いに囚われているような気がしてきます。そこで、「休業するのであれば、それに対して保証が……」とか、「学校がないと三食を作らないといけないので、……」とか。いままでの何もなかった、あたりまえの生活と比べて、私たちは右往左往してしまっているのではないでしょうか。
　禅の言葉で、「寒時〈かんじ〉は闍黎〈じゃり〉を寒殺〈かんさつ〉し　熱時〈ねつじ〉は闍黎を熱殺〈ねっさつ〉す」というものがあります。
　これは、『碧巌録〈へきがんろく〉』という禅の書籍にあるお話しに出てくる言葉です。洞山良价〈とうざんりょうかい〉という禅のお坊さんのところに、ある日、僧がやって来て質問します。
「寒くなった時、暑くなった時、どうすれば寒さや暑さから逃がれることができますか」　すると、洞山はこう教えました。
「寒さや暑さのない所に行けばよいではないか」
「寒さや暑さのない処とは、どこでしょうす」
　そこで、洞山が答えたのが、次の言葉です。
「寒時には闍黎を寒殺し、熱時には闍黎を熱殺す（寒いときには寒さになりきり、暑いときには暑さになりきればいいのだ）」
「闍黎」とは、「禅の修行僧」を指します。つまり、ここでは「私たち自身」ということです。また「殺」には、「なりきる」という意味があります。
　つまり、この言葉の意味は、暑い時は、暑さになりきり、寒い時は、寒さになりきればいい、ということです。暑いとか寒いとかいうものは、私たちが暑さや寒さを比較してしまうから、寒いとか暑いとか感じ、悩んでしまうのです。この場合の「なりきる」とは、たとえば暑いときに、「クーラーの効いた部屋であれば、……」などと今の状態から逃れることを思うのではないのです。ただひたすら今の状況をそのまま受け入れるということです。
　つまり、私たちは今、新型コロナウィルスの感染拡大によって、苦しい状況にあるでしょう。だから、私たちは、この状況から早く逃れたいために、どうすれば逃れることができるかを考え、ジタバタもがいてしまうのです。
　政府とか、それぞれの知事たちは、感染拡大を終息に向かわせるために、声を大にして、私たちの行動の自粛を訴えています。
　洞山の言葉は、この自粛を辛く感じて、文句もいいたくなる私たちに、とにかく現状を受け入れなさいと教えてくれているのではないでしょうか。苦しいときは苦しいものと真正面からぶつかっていって、はじめて苦しいということを脱却することができるのです。
　まず、「STAY　HOME（家にいましょう）」です。そして、この状況を逆手に取って、本を読み、内面を磨いていきましょう。

■□３月の法話■□

●悟れば好悪無し

　人間関係は多種多様です。つきあう相手を自分で選べるわけではありませんから、ウマの合う人もいれば、ウマの合わない人もいるはずです。それでも、縁があれば、苦手と思える人とでも、つきあわなければならないケースもあります。
　例えば、会社がまさにそうです。苦手な人が一人や二人いたとしても、避けることはできません。だから、苦手意識をもちながらつきあっていくのは結講つらいものがあるでしょう。
　仏教では、不自賛毀他戒（自分をほめない、他人はけなさない）という戒がありますが、これは、私たちにはなかなか守れないものです。また一方で、仏教では執着からの離れろとも言います。執着というのは、「ものにとらわれる心」です。
　つまり、相手への苦手という気持ちにとらわれることも執着ですが、「イヤと思ってはいけない」と思い込むのもまた、執着です。これでは、どちらに転んでも、私たちは幸せになれません。
　では、どう考えればいいのでしょうか。多分、苦手意識には自分の「我」が働いていないでしょうか。
　イヤと思うのは、自分がこうして欲しいのに、そうはしてくれないとか、自分がこう考えるのに、まったく違った考え方をする、といったことがあるからでしょう。つまり、自分が思った通りにならない、あるいは、してくれない相手に対して、イヤな気持ち、苦手意識をもってしまうのです。
　考えてみてください。他人を自分の思う通りの人に変えることはできない相談ではないですか。そうであれば、逆に自分が変わるしかないはずです。
　ところで、禅の言葉に、「悟れば好悪無し」というものがあります。私たちは迷っていと、確かな判断ができないが、悟りを得ると明確な判断がきるようになるということです。つまり、あるがままを認めれば好きも嫌いもない、すべてをありがたく受け止めることができるという意味です。
　これは苦手な人についても同じことが言えます。相手を変えることは無理。だったら、相手のあるがままを認める自分に変わればいいのです。「こうあって欲しいと思っていた相手」を、「こういう人」なのだと認めてしまえば、苦手意識も払拭されると言うことです。
　同様に、近所にいる小言が多いおじさんも、皮肉屋のおばさんも、「そういう人ね」と心に言い聞かせて、その場をやりすごしたらいいのです。
　どちらにしても、イヤな他人に対して、それはそれと認めること。そうすれば、私たちは日々を安らかに生きていくことができるのです。

■□２月の法話■□

●すべての現象は、私たちの心がつくる

　私たちは生きていると、いろいろな不安や心配事をかかえてしまいます。不安を抱いたことなど一度もない人などいないはず。生きていれば、大なり小なり、誰しも不安や心配事はつきものなのです。
　いま、世間では、「新型コロナウィルス感染症」の話で右往左往しているようです。私たちも感染するのではないかの不安、京都ですので観光客が減って、売上げが下がることへの不安など。それぞれの思いによって、不安が違いますが、それぞれが自分にとっての不安を抱えているようです。
　かといって、つねに不安感に苛まれていれば、心が病んでしまいます。不安はありますが、それにばかり目をとらわれずに、少しの距離を置いて眺めてみることが必要でしょう。
　ところで、「一切唯心造」という禅語があります。すべての現象は、私たちの心がつくりだしているものだ、という意味です。心が勝手につくり出した幽霊みたいなものなのです。
　よく考えてください。不安や心配というものには実態がありません。例えば、今皆さんが抱えている心配事を紙に書いてみてください。多分、書き上げた心配事は、未だ起こっていないことばかりなはずです。現実に起きていないのですから、それらは想像の世界の話。自分が勝手に想像して、不安になっているだけのことなのです。
　もしも大きな病気に罹ってしまったらどうしようと不安に思う。その気持ちはよく分かります。だが、今は健康であるのに、将来の病気のことばかりを考えている。そんな心配ばかりしていたら、それこそ病気のほうから近づいてきます。
　今が健康であるなら、それに感謝をしながら一生懸命に毎日を過ごせばいいのです。不幸にして病気になってしまったら、そのときに考えればいいことです。
　実際に病気になってしまったら、もう不安がっている暇などありません。その病と向き合っていくしかないのです。
　また、親の介護が不安だという人もいるでしょう。しかし、現実にはまだ介護をしていないわけです。不安を持ったら、親の介護の不安が消えてなくなる、というのならまだしも、そんなことは絶対にないんです。その時が来れば、その時にいろいろ考えればいいのです。
　あれこれと不安をつくるのではなく、今という瞬間に目を向けることです。
　いま、私たちが心配している「新型コロナウィルス」に感染するかしないかはわかりません。ただ、私たちにできることは、外から帰ってきたら、手をよく洗い、うがいをすることだけではないでしょうか。
　つまり、ほんとうに心配するのなら、それが起こらないように努力をしてみること。自分の行動や意志で避けることができるのであれば、やれるだけのことをやることです。

■□１月の法話■□

●他と比べない

　皆さんにはこんな経験はないでしょうか。
　たとえば、数年ぶりに友人と会った時などに、ふと、
　「自分と相手と、どちらが若く見えるだろうか」
　「どちらが、給料がいいだろうか」
　「どちらが、幸せに生きているだろうか」
などという思いが、頭をよぎったことがなかったでしょうか。
　私たちは、自分と他人を、つい比較してしまいがちです。どうしても自分を中心に人を見てしまい、比べることで優越感や劣等感を得てしまいます。なぜなら、他人との間に目に見えない「心の一線を引いてしまう」からです。そして、そのことにより、安心してみたり、がっくりして、人生の何もかもが負け劣っているようで、生きていくのも辛くなったりたりしてしまうのです。
　他人と比較して、一喜一憂してしまうのが私たちなのです。そんな時にヒントを与えてくれるのが、禅の言葉です。
　「至道無難　唯嫌揀擇」（至道難きこと無し唯だ揀擇を嫌う）という禅語です。
　この言葉は、禅の語録『碧巌録』の中にある趙州和尚の言葉です。
　悟りへの道はけっしてむずかしいものではない。ただ、取捨選択、あれはいい、これは嫌いというようなことではいけない。取捨選択さえしなければ、悟りの道に達することができるのだよ、という意味です。
　「悟り」を「幸せ」に置き換えれば、私たちも身に覚えのあることがたくさんあるはずです。自分なりに一生懸命生きているなら、他人を気にする必要はありません。幸せは人それぞれ違うはずです。比較しなければ、幸せになるのは簡単なのです。
　とはいえ、よい悪い、好き嫌いを区別しないことは、想像以上にむずかしいことです。そうするまいと思うそばから、私たちは、あれこれ選びながら生きていることに気づかされるからです。
　禅ではどんなものも、どんな人も、他とは比べようがない、絶対の存在とします。自分なりに一生懸命生きているなら、他人を気にする必要はないはずです。にもかかわらず、他と比較をするのは、私たちが今の境遇に満足していないからです。
　私たちが幸せになるには、今の境遇を、今の自分に与えられた場所として、ありのまま受け入れることです。言葉を換えれば、今の私たちの状態は、わざわざ仏様が私たちのためにアレンジしてくださったあり方なのだと思い、自分に言い聞かせることなのです。

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